ウェルビーイングの意味と関連指標|必要性や3つのメリット、導入方法を紹介


ウェルビーイングの意味と関連指標|必要性や3つのメリット、導入方法を紹介

時代の変化の中、社員のウェルビーイングを高め企業の業績を向上させる取り組みが広がっています。
本記事ではウェルビーイングの意味や指標・注目が集まる理由・取り組む方法を解説します。ウェルビーイングの理解を深め、業績向上につなげたい方は参考にしてください。

こんにちは。人事・経営に役立つメディア「タレントマネジメントラボ」を運営する「タレントパレット」事業部編集チームです。

「ウェルビーイングとはどういう意味?」「注目される理由は?」「導入するメリットを知りたい」と思う方は多いのではないでしょうか。

ウェルビーイングは、仕事に対するやりがいやエンゲージメントといった要素を含む概念です。時代の変化の中で、働き方改革を進化させて社員のウェルビーイングを高め、企業の業績を向上させようとする取り組みが拡まっています。

そこで本記事では、ウェルビーイングの概要や指標となる要素・注目が集まる理由や取り組むメリットまで詳しく解説します。ウェルビーイングについて理解を深め、業績向上につなげたい方は、ぜひ参考にしてください。

ウェルビーイングとは心身・社会的に良好な状態を意味する概念

ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態を意味する概念のことです。直訳すると「幸福」「健康」という意味を持ちます。1946年に署名された、世界保健機構(WHO)憲章の全文では、次のように定義されています。

健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう
参照元:公益社団法人 日本WHO協会

働き方改革が進み、企業における組織のあり方について議論する中で、ウェルビーイングの概念が意識されるようになってきました。近年、大きな時代の変化の中で働き方改革を進化させ、社員のウェルビーイングを高めることで企業の業績を向上させようとする取り組みが広がってきています

ウェルビーイングとウェルフェアの違い

ウェルビーイングと混同されやすいものに「ウェルフェア(welfere)」があります。ウェルフェアとは「社会的に弱い立場にある人を保護する」といった意味合いや、受動的な福祉観を持ちます。

一方、ウェルビーイングは、社会を構成する個人が自ら望むライフスタイルを構築し、実現する権利を重視する概念です。弱い立場にある人を保護するだけでなく、あらゆる個人が主体性を持って誇示実現を求める権利を保障する、能動的な福祉観だと言えるでしょう。

ウェルビーイングの計測に関連する5つの指標

ウェルビーイングは概念であり、直接観察したり測定したりできません。しかし、概念を構成する要因を仮定した場合、影響を受けるであろう行動や心的要因を規定し、ウェルビーイングの程度を把握できます。

例えば、天気の場合「温度・湿度・気温・風速」などの定量評価の軸を設けることで「良い天気」と示されます。ウェルビーイングも同様に、要因を具体的に把握し、定量評価の軸とすれば、設計指針が明確になるでしょう。

各国において、生活の質に関する指針を計測し、評価する取り組みを政策立案に活用する取り組みが拡がっています。とはいえ、構成する要因や指標に関しての理論はそれぞれ異なります。

主な指標は、以下の通りです。特に「OECDによるBLI」は、各国で指標策定の参考とされています。

  • OECDによるウェルビーイング指標BLI
  • ウェルビーイングの5つの要因PERMA
  • 自己決定理論による3つの動機
  • 医学的モデルによる10の指標
  • 日本におけるウェルビーイングの指標


1つずつ解説します。

OECDによるウェルビーイング指標BLI

2011年、OECD(経済協力開発機構)はウェルビーイングの指標として「より良い暮らし指標(BLI)」を開発しました。BLIは、日本においてウェルビーイングの指標策定の際、検討の土台とされています。

BLIの構成要素は、次の11分野です。

  1. 所得と富
  2. 住宅
  3. 雇用と仕事の質
  4. 健康
  5. 知識と技術
  6. 環境の質
  7. 主観的well-being
  8. 安全
  9. ワークライフバランス
  10. 社会的つながり
  11. 市民参画


上記11分野の指標は、OECD加盟国など合わせて40カ国の指標を比較できるよう、OECDのHP上に公開されています。

ウェルビーイングの5つの要因PERMA

ウェルビーイングの要因として、PREMAが挙げられます。ウェルビーイングの5つの要因PERMAは、ポジティブ心理学の推進者マーティン・セリングマンによって考案されました。

PERMAとは、以下の5要素の頭文字を取った言葉です。

  • Positive Emotion:ポジティブな感情
  • Engagement:何かへの没頭
  • Relationship:人とのよい関係
  • Meaning and Purpose:人生の意義や目的
  • Achievement/ Accomplish:達成


上記5つの項目をバランスよく満たすことが、ウェルビーイングの実現のために必要だとする理論です。

自己決定理論による3つの動機

リチャード・ライアンとエドワード・デシが提唱した自己決定理論では、以下3つの要因が人間を動機づけてウェルビーイングへ導くとしています。

  • 自立性:何かを自分の興味や意図によって行うこと
  • 有能感:成し遂げる能力が自分にあると感じること
  • 関係性:他者に受け入れられていると感じること


医学的モデルによる10の指標

フェリシア・ハバートとティモシー・ソーによる「医学的モデルによる10の指標」は、心の病と判定される症状と反対の状態がウェルビーイングを特定するといった基準で構成されます。医学的モデルを構成する要因は、以下の通りです。

  1. 有能感
  2. 情緒性安定
  3. 没頭
  4. 意義
  5. 楽観性
  6. ポジティブ感情
  7. 良好な人間関係
  8. 心理的抵抗力
  9. 自尊心・回復力
  10. 活力


日本におけるウェルビーイングの指標

日本におけるウェルビーイングの指標として、内閣府の「満足度・生活の質に関する調査」が挙げられます。満足度・生活の質に関する調査は、2021年2月に調査が開始されました。

以下13分野で構成され、分野別の満足度、質問などによって、主観・客観の両面からウェルビーイングを多角的に把握できます。

  1. 家計と資産
  2. 雇用環境と賃金
  3. 住宅
  4. 仕事と生活
  5. 健康状態
  6. 自身の教育水準・教育環境
  7. 社会との繋がり
  8. 政治・行政・裁判所
  9. 自然環境
  10. 身の回りの安全
  11. 子育てのしやすさ
  12. 介護のしやすさ・されやすさ
  13. 生活の楽しさ・面白さ


内閣府による調査は、政策に紐づく指標と、主観的な満足度の関係を分析できるものです。自社において、社員のウェルビーイングを把握する指標として活用できるでしょう。

とはいえ、調査方法や指標群のあり方について、今後も調査結果・分析を踏まえて改善の必要があるとされています。

ウェルビーイングを重視した経営に注目が集まる6つの理由

ウェルビーイングという言葉は、もともと社会福祉や医療などの分野で使われていました。ウェルビーイングがビジネスシーンでも意識されるようになった背景に、働き方改革関連法による多様な働き方の容認、経済産業省による健康経営の促進などが挙げられます。

この章では、ウェルビーイングを重視した経営に注目が集まる6つの理由を解説します。

価値観の多様化

ウェルビーイングを重視した経営に注目が集まる理由の1つは、価値観の多様化に対応するためです。現代では多様性を重視する流れがあり、価値観も多様化しています。

性別や文化など、さまざまなバックグラウンドを持つ人と一緒に仕事をする機会が増えているため、社員の多様性を認めて尊重する企業経営が不可欠です。

働き方改革の推進

働き方改革の推進は、ウェルビーイングが注目される理由の1つです。2019年4月からスタートした働き方改革によって、同一労働・同一賃金の運用や残業時間の上限が規制されました。近年、働き方の改善や、多様な働き方を認める動きが加速しています。

企業として働き方改革に対応するため、社員の労働環境を整備する必要があります。人材確保が難しくなっている現代では、多様な働き方や働きやすい制度・仕組みづくりがマストです。

健康経営の推奨

健康経営とは、経営的な視点から社員の健康管理を行うことです。健康経営は、残業時間の上限規制・産業医の機能強化・同一労働・同一賃金などを定めています。

長時間労働や、過酷な職場環境によって社員の健康が低下すると、集中力低下や欠勤増加・離職率の増加につながります。さらに、企業のイメージダウンや社員のパフォーマンス低下・業績悪化につながる可能性があるでしょう。

人材の確保や定着率を高めるためにも、ウェルビーイングを重視した会社経営は欠かせません。

人材不足・流動性の高まり

日本では少子高齢化が加速化しており、労働人口は減少傾向にあります。また、終身雇用の崩壊により、より良い環境や待遇、キャリアアップを求めて転職する人も増えています。

このように、人材の流動性が高まり、人材不足に悩む企業も多いでしょう。対策として、企業は社員のロイヤルティや帰属意識を高める必要があり、ウェルビーイングに注目が集まっています。

人材不足について詳しく知りたい方は、人材不足について解説した記事もあわせてご確認ください。
人材流動性について詳しく知りたい方は、人材流動性について解説した記事もあわせてご確認ください。

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルス感染症の影響も、ウェルビーイングが注目される要因の1つです。新型コロナウイルス感染症が流行したことにより、人との接触を避けようという動きが広がり、テレワークを導入する企業が急増しました。

テレワークのメリットは、出勤せずに仕事ができる点や、人との接触を減らせる点です。コミュニケーションが取れない、人と話す機会が減ったなど新たな問題も発生し、ストレスが表面化してきています。社員が心身ともに健康でイキイキと働くためには、ウェルビーイングが重要だと言えるでしょう。

SDGsでの言及

SDGsは、2030年までに持続可能な開発目標のことです。地球を保護しながら、繁栄を促進するための行動を求める、国際的な17の目標です。SDGsが掲げる目標の1つに「GOOD HEALTH WELL BEING」があります。

「GOOD HEALTH AND WELL-BEING」とは、すべての人に健康と福祉をという意味です。健康的な生活の確保や福祉の促進などが求められており、世界的にウェルビーイングへの意識が高まっていることがわかります。

企業がウェルビーイング経営に取り組む3つのメリット

この章では、企業がウェルビーイングを重視した経営に取り組む3つのメリットを解説します。

企業価値が向上する

ウェルビーイングは、健康経営の一歩先をいく概念です。企業がウェルビーイングを重視した経営に取り組むことは、企業価値の向上につながります。

健康経営優良法人の認定の有無を、上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)の評価基準に組み入れる動きがあります。健康経営優良法人として顕彰・公表されれば、企業のイメージアップにつながるでしょう。その結果、商品ブランドや顧客満足度が向上し、企業の持続的な成長につながります。

また、ウェルビーイングを重視した経営を行っていることで、優秀な人材から「働きたい企業」として選ばれる可能性が高まるでしょう。

生産性が向上する

ウェルビーイングを重視した職場環境で働くことで、社員の満足度やパフォーマンスが高まり、結果として生産性が向上します。ウェルビーイングに配慮した経営は、長時間労働の削減などの健康経営の推進につながります。

メンタルヘルス・生活習慣病・労災事故などのリスクが減り、社員の健康が促進されて、結果的に業績向上につながるでしょう。

離職率の低下につながる

ウェルビーイングに配慮した職場環境であれば、社員の幸福度が上がって離職率の低下につながります。実際、健康経営に取り組む企業では、2020年における全国の一般労働者の離職率と比較して低い傾向にあります。

多様な働き方やワークライフバランスが実現できるため、ワークエンゲージメントが高まるでしょう。ウェルビーイングを重視することで、健康経営の組織体制が構築され、組織の活性化につながります。


離職防止について詳しく知りたい方は、離職率防止について解説した記事もあわせてご確認ください。

ウェルビーイング経営に取り組む方法

この章では、ウェルビーイング経営に取り組む方法を解説します。

労働環境を見直す

ウェルビーイング経営においては、労働環境の見直しが重要です。対策として、主に次のようなものが挙げられます。

  • 長時間労働を減らすための対策
  • 女性・高齢者などの活躍支援
  • DX化に対応したスキル習得支援など


1つずつ見ていきましょう。

長時間労働を減らすための対策

労働環境を見直すにあたり、長時間労働を減らすための対策が重要です。長時間労働に従事する社員の中には、労働時間を減らしたいと考える人も少なくありません。

厚生労働省の調査によると、週60時間以上労働している社員の中で「労働時間を減らしたい」と答える割合は「今のままで良い」を上回っています。正社員であっても、ライフスタイルに合った働き方を選択し、希望する労働時間が実現可能な環境を整備していく必要があります。

女性・高齢者などの活躍支援

労働環境の見直しとして、女性・高齢者などの活躍支援が求められます。2040年までに労働人口は減少すると見込まれているため、女性や高齢者の就労参加に対応する職場環境を早急に整備することが必要です。

DX化に対応したスキル習得

DX化に対応したスキルが習得できる職場環境の整備が重要です。今後、これまでの定型的な業務をAIが代替えすると予測されており、社員一人ひとりに求められるスキルが劇的に変化する可能性があります。

また、AIの進展によって提携業務が機械化された場合、賃金格差が拡大する可能性が指摘されています。生産性向上の成果を社員に分配し、賃金が上昇する職場環境の整備が大切です。

コミュニケーションの環境を整える

ウェルビーイングを高めるには、社員同士がコミュニケーションを取りやすい環境を作ることが大切です。オープンスペースを設置してコミュニケーションを取りやすくするなど、風通しの良い職場になるように環境を整えましょう。

ウェルビーイング経営に取り組む企業の事例3選

この章では、ウェルビーイングを重視した経営に取り組んでいる企業の事例3選を紹介します。

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社は「幸せを量産する使命」を経営理念の中心に据え、以下3つの取り組みを行っています。

  • 働く人への取り組み
  • 地球環境への取り組み
  • 幸せに暮らせる社会への取り組み


トヨタでは、社員の65%以上が外国籍で、女性比率は20%以上です。多様な才能・価値観を持つ人材が最大限能力を発揮できる環境づくりを進めており、国際女性デーの全社イベント開催や、授乳休憩の設定・女性専用祈祷室の設置などを実践しています。

また、スポーツに宿る「ネバーギブアップ」や仲間のために闘う「フォア・ザ・チーム」の精神を大切にし、33の運動部を創設し、引退後のセカンドキャリア支援にも注力しています。

2021年には、ウェルビーイングとは?という、簡単には答えの見つからない課題に対して議論する「Emotional Well -Beging研究会」を立ち上げ、未来につながる講演を行っています。

参照元:トヨタ自動車株式会社

楽天グループ株式会社

楽天グループ株式会社では、代表取締役社長をトップに位置づけた、健康・安全・ウェルネス経営の推進体制をグループ全体で構築しています。CWO(Chief Well-being Officer)のもと、以下3つの要素を組み合わせた「健康的に働き続けられる従業員・組織風土作りの実現を目指しています。

  • Body:健康的な体
  • Mind:健康的なこころ
  • Social:健康的な社会とのつながり


上記3つの観点を含めた項目で「ウェルビーイングサーベイ(調査)」を定期的に実施し、社員の心身の健康状態を分析しています。これまでの調査結果から、睡眠不足・運動不足・体重管理が3大課題とし、年間約30%低減させるための取り組みを実施しています。

また、知識向上や情報共有の主な取り組みは、グループ全体の健康経営の推進活動です。例として、以下のような活動が挙げられます。

  • 健康経営ワーキンググループの勉強会の開催
  • ウェルネスセミナー
  • イベント・マインドフルネスネットワークなど


参照元:楽天グループ株式会社

パナソニックホールディングス株式会社

パナソニックホールディングス株式会社は、社員一人ひとりのウェルビーイングを実現するため、以下3つの軸で取り組むことを公表しています。

  • 「安全・安心・健康に、はたらく」ー安全・安心・健康な職場づくりの推進
  • 「やりがいを持って、はたらく」ー自発的な挑戦意欲と自律したキャリア形成の支援
  • 「個性を活かしあって、はたらく」ーDiversity,Equity&Inclusionの推進


2021年から、働く時間・場所の選択肢の拡大を段階的に実施し、社員のウェルビーイングの安定を図る施策を進めています。

参照元:パナソニックホールディングス株式会社

ウェルビーイングのまとめ

ウェルビーイングとは、心身や社会的に良好な状態にあることを指します。社会の多様化や労働人口の減少、働き方改革の推進などによりウェルビーイングの重要性が高まっています。ウェルビーイングを重視した経営を行うことで、離職率の低下や生産性・企業価値の向上が期待できるでしょう。

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