ストレスチェック制度の義務化とは?内容・導入準備・実施手順をまとめて解説


ストレスチェック制度の義務化とは?内容・導入準備・実施手順をまとめて解説

ストレスチェック制度は、労働者が常時50人以上の企業に義務付けられています。実施や報告義務を怠れば罰則を受けるため、しっかり準備しておきたいところです。この記事では、ストレスチェックの義務化の内容、導入準備、実施手順、注意点などを解説します。効果的なストレスチェックを実施するために役立ててください。

そもそもストレスチェック制度とは?

ここでは、そもそもストレスチェックとは何なのか、制度の概要と目的を解説します。
 

社員のストレス状況をチェックする簡易的な検査を行う

ストレスチェック制度とは、労働者が自分のストレス状況を把握し、メンタルヘルス不調を予防するための制度です。例えば、以下のような質問を50個程度用意して、簡易的に検査します。
・非常にたくさんの仕事をしなければならないことがある
・上司とどのくらい気軽に話ができますか
検査の結果により、社員のストレス状況をチェックします。
 

メンタルヘルス不調を未然に防止するために実施する

メンタルヘルスチェックは、ストレスの早期発見や治療ではなく、原因の排除やリスクの低減を目的にした「1次予防」に分類される検査です。
 
原因の排除には、「業務量を減らしてもらう」「上司のハラスメントを改善してもらう」などが挙げられます。また、リスクの低減とは、「ストレス度合いを自覚する」「医師の面談を受ける」などです。
 

ストレスチェック義務化の内容

ここでは、義務化の対象となる企業と、実施条件を解説します。労働安全衛生法に違反しないためにも、内容をよく理解しておきましょう。
 

義務化の対象は労働者が常時50人以上の企業

2015年の「労働安全衛生法」改正によって、労働者が常時50人以上の企業に対して、ストレスチェックが義務化されています。
「常時」とは、勤務時間や日数を制限せずに継続雇用している状態です。もし複数の事業所で50人以上の労働者がいるなら、各事業所でストレスチェックを実施しなければなりません。
 

年1回以上の実施が義務付けられている

ストレスチェックは年1回以上の実施が義務付けられています。実施日は事業主が決められますが、年1回以上の条件を満たす義務があります。
一般的には、繁忙期や異動が多い時期などは避けたほうがよいでしょう。都合が悪い社員やアルバイトなどが多くなり、次項で解説する対象者の条件を満たせなくなる可能性があるからです。
 

ストレスチェックの対象は常時使用する全社員

ストレスチェックの対象は、全社員のほか、契約社員、パート、アルバイトも含みます。ただし、契約期間が1年未満の労働者や、通常の労働者に比べて所定労働時間が4分の3未満の短時間労働者は対象外にすることが可能です。
派遣労働者は派遣元事業主の義務になりますが、職場改善のためには派遣先でもストレスチェックを受けたほうがよいとされています。
 

ストレスチェックの集団分析は「努力義務」

ストレスチェックの集団分析とは、事業所や部署、グループ単位でストレス状況を分析するプロセスです。個人が特定されないように、原則10人以上の集団に対して実施します。
この集団分析は義務ではなく努力義務です。しかし、集団分析することで組織的な問題が見つかることもあり、自主的に実施する企業も少なくありません。
 

なぜストレスチェックは義務化されたのか?

ストレスチェックが義務化された背景は、仕事に関係するメンタル不調が増えているためです。
 

メンタルヘルス不調による労災が増えたから

厚生労働省の調査によると、精神障害による労災請求や認定件数は増加傾向にあります。実際、2009年に234件だった認定件数は、義務化された2015年には472件になっています。
メンタルヘルス不調の主な原因は、上司のハラスメント、職場のいじめ、仕事量や質の変化などです。この増加傾向はなお続いており、2020年の認定件数は608件でした。
※参考:精神障害の労災補償状況(平成元年度公表)|厚生労働省
※参考:精神障害の労災補償状況(令和2年度公表)|厚生労働省
 

仕事に関連する自殺が多いから

自殺者の総数は減少傾向にありますが、勤務問題、健康問題の自殺は諸外国に比べて多い傾向があります。このため勤務問題の改善や、ストレスが原因の健康リスクを減らすために、ストレスチェックが義務化されました。
 
経済的にみると労働者の損失、生産性の低下の問題があり、こうした観点からもストレスチェックが推進されています。
 

ストレスチェック義務化に対応するための前準備

企業の担当者は、具体的にどのように義務化に対応すればよいのでしょうか。ここではストレスチェックの前準備について解説します。
 

1.ストレスチェック実施の告知と衛生委員会での話し合い

事業者はストレスチェックを実施する方針を決定し、実施する義務と責任を負っています。このため、労働者のメンタルヘルスを予防するためにストレスチェックを実施する旨を、会社として改めて表明しなければなりません。
 
表明後、衛生委員会を開き、実施時期、場所、責任者、質問票の方針、個人情報の保管方法など具体的な内容を話し合い、労働者側の合意を得ます。
 

2.社内規定の明文化と周知徹底

衛生委員会で決まった内容は、社内規定として明文化することが義務付けられています。また、すべての労働者に実施内容を知らせることも必要です。
 
プライバシーの侵害や人事評価への影響を心配する人もいるため、労働者側に配慮した対応を意識しましょう。
 

3.ストレスチェック担当者の選定

次にストレスチェックの実施体制を整えます。具体的には、ストレスチェック制度全体の担当者、実施担当者、実施サポート担当者、面接指導する医師を選び、配置します。
 

ストレスチェック制度全体の担当者

ストレスチェック制度担当者とは、制度全体の計画立案や、進捗管理など、全体を把握して管理する担当者です。この担当者は、事業場の衛生管理者またはメンタルヘルス推進の担当者が推奨されています。
 

ストレスチェックの実施

ストレスチェックの実施者は、調査票の企画や高ストレス者の判定基準の策定などを行います。専門的な知識が必要なため、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士のなかから選ばなければなりません。
 

ストレスチェックの実施事務従事者

ストレスチェックの実施者をサポートする担当者です。調査票の回収やデータ入力などの際に個人情報を閲覧するため、人事権を持つ社員はなれません。
 
もし人事担当者を加えたい場合は、個人情報を扱わない制度全体の担当者にしましょう。
 

面接指導を担当する医師

ストレスチェック後に高ストレス者とされた労働者に対して、面接指導を行う医師です。医師の資格を持っていれば問題ありませんが、事業場の産業医、または産業保険活動に携わっている医師が望ましいとされています。面接指導担当の医師も外部委託が可能です。

タレントパレットなら、ストレスチェック機能を標準搭載。簡単なアンケートで社員のストレスや健康状態を確認できます。

ストレスチェックの実施手順

ここからは、ストレスチェック実施の際の具体的な手順を解説します。なお、集団分析のプロセスは含まれていません。
 

1.質問票の配布・記入

ストレスチェックの質問票を作成して労働者に配布し、記入してもらいます。質問票の内容に決まりはありませんが、国が推奨する「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を参考にするのが一般的です。
 
「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」をテンプレートにして、自社の労働環境に合うようにアレンジするとよいでしょう。
 

2.ストレス度合の判断

回収した質問票は、ストレスチェックの実施者が分析します。この際、事前に決めておいた高ストレス者の条件を満たす人、自覚症状が一定以上ある人を医師の面接指導の対象者として選びます。
高ストレス者の判断基準がわからない場合は、厚生労働省「ストレスチェック制度実施マニュアル」を参考にしてください。
※参考:ストレスチェック制度実施マニュアル|厚生労働省
 

3.結果通知

ストレスチェックの結果を、実施者から労働者本人に直接個別に伝えます。結果を企業が入手するには、本人の同意を得なければなりません。
 
通知義務がある内容は、「ストレスプロフィール(ストレスの特徴、傾向を図表や点数でわかりやすく示したもの)」、ストレスの程度、面接指導の対象者かどうかの3点です。
 
これらに加えて、セルフケアのアドバイス、面接指導の説明などを必要に応じて行います。
 

4.医師による面談

高ストレスと判断された労働者は、医師による面談指導を実施します。面談日時もなるべく労働者に配慮して、受けやすい環境を整えてください。ただし、対象となるのは本人から申し出があった場合のみです。
 
申請、面談には期限があることにも注意が必要です。申出は結果通知から1カ月以内、面接指導は申出から1カ月以内と定められています。
 

5.意見聴取

事業者は面接指導の結果を医師から意見を聴取し、就業上の対策を検討する材料とします。医師からの意見聴取は、面接指導後1カ月以内に行う必要があるため、忘れないようにしましょう。
 
医師の改善提案には、就業制限(就業時間短縮、業務変更など)と休業(療養、休職など)の条件が含まれます。例えば、「メンタルヘルス不調のリスクが高いため、労働時間を短縮したほうがよい」など措置の内容を伝えてもらいます。
 

6.就業上の措置の実施

医師からの意見の結果、就業環境に問題があれば改善措置を図ります。この措置は原因の排除やリスクの低減が目的であるため、内容が多岐にわたる点が特徴です。
 
一例を挙げれば、休職、労働時間短縮、作業転換、上司の変更など高ストレス者本人への対処があります。また、ハラスメント防止のための啓もう活動、人手不足解消など、組織的な改善措置も場合によっては必要です。
 

7.報告

ストレスチェックの結果は、毎年、所轄の労働基準監督署に報告する義務があります。報告様式が決まっているため、厚生労働省のホームページで最新のものをダウンロードして記入しましょう。
 
提出時期は事業所ごとに自由に決められます。また、部署ごとに実施している場合は、1年間の実施結果をまとめて報告してもかまいません。
 

ストレスチェック義務化に対応する際の注意点

ストレスチェックのやり方によっては、後でトラブルを引き起こしてしまうため要注意です。
 

実施・報告義務を怠ると罰則を受ける

ストレスチェックを実施しないと、安全配慮義務違反になる可能性があります。労働契約法5条には、「心身の健康を保ちながら働けるよう職場環境に十分な配慮が必要」とあるからです。
 
また、報告義務を怠ると最大50万円の罰則金を支払わなければなりません。
 

社員のプライバシー保護

ストレスチェックは個人情報を扱うため、十分な注意が必要です。実施者と実施事務従事者には守秘義務が課されているため、違反した場合は刑罰の対象になります。
 

結果によって社員を不当に取り扱わない

ストレスチェックの結果に基づいて、労働者に不利益を与える行為は認められていません。具体的には解雇、降格、配置転換などの行為が禁止されています。また、ストレスチェックの結果を提出することや、面接指導を受けることを強要できません。
 

まとめ

毎年1回のストレスチェックの実施と報告は、社員数50人以上の企業に義務付けられています。質問票作成や実施担当者選定など、やるべきことは多いため、計画的に準備を進めましょう。社員のメンタルヘルスを維持増進するには、ストレスチェックだけでなく、適切なマネジメントや人材育成も大切です。
社員一人ひとりに寄り添う健康経営を目指すなら、ぜひタレントマネジメントシステム「タレントパレット」についてお問合せください。