これからの人事はファクトベースで意思決定すべき―LIFULL羽田さんが語るタレントマネジメントとは

  • インタビュー

これからの人事はファクトベースで意思決定すべき―LIFULL羽田さんが語るタレントマネジメントとは

2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位に輝くなど、「日本一働きたい会社」と言われる株式会社LIFULL。同社で執行役員人事本部長を務める羽田幸広さんは、その立役者のひとりです。羽田さんはいま、タレントマネジメントを実践し、人事施策のさらなる進化を追求しています。2018年7月、日本経済新聞社・日経BP社主催のセミナー「Human Capital2018」にて、羽田さんと、タレントマネジメントシステムを提供しているプラスアルファ・コンサルティングの取締役副社長・鈴村賢治と人材データを活用する「タレントマネジメントとこれからの人事」について対談しました。

社員を理解し情熱を傾けられる環境をつくることがタレントマネジメント


鈴村
鈴村

いま、企業の人事部門ではタレントマネジメントへの関心が高まっています。現状、タレントマネジメントの定義は会社によってさまざまです。「エクセルで行っている人事評価をウェブ化することだ」という方もいますし、「社員の顔と名前をデータベース化することだ」という方もいます。羽田さんは、タレントマネジメントをどう定義されていますか。

羽田さん
羽田さん

私の場合は、会社の大きな方針や人材マネジメントの方針も踏まえた上で、「社員一人ひとりの『やりたいこと』と『できること』を理解し、彼らが最も仕事に情熱を傾けられる環境をつくること」だと定義しています。さらに、社員の力を引き出して、事業の成果を上げながら、ビジョンの実現につなげていくための一連の人材マネジメントこそが、タレントマネジメントではないでしょうか。

羽田 幸広(はだ・ゆきひろ)さん。上智大学卒業後、人材関連企業を経て2005年に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)入社。人事責任者として人事部を立ち上げた。2008年からは「日本一働きたい会社プロジェクト」を推進し、2017年「ベストモチベーションカンパニーアワード」1位を獲得。7年連続「働きがいのある会社」ベストカンパニー選出(2011年~2017年)、健康経営銘柄選定(2015年度、2016年度)など、企業として高い評価を得るまでに導いた。著書に『日本一働きたい会社のつくりかた』(PHP研究所)など。

鈴村
鈴村

「社員のやりたいことを理解して、パフォーマンスを上げるための仕組みをつくっていく」ということですね。

羽田さん
羽田さん

そうですね。
大切なのは本人の意志です。人間、好きなことをやっているほうが力を発揮できるものですよね。だからこそ、「好きなこと」をちゃんと把握しておくことから始めなければならないと思っています。

内発的動機づけが社員のチカラを発揮させる

鈴村
鈴村

社員のパフォーマンスを上げるための仕組みづくりについて、LIFULLさんでは具体的にどんな取り組みをしていますか。

羽田さん
羽田さん

たとえば半年に1回、「キャリアデザインシート」というのを全社員に書いてもらっています。将来自分がやりたいことを、たとえ自社に関連していなくてもいいので、考えてもらう。そうして出てきた答えから逆算し、5年後・3年後・半年後、どんなことをやりたいかを書いてもらうんです。
キャリアデザインシートを記載する中で、「将来の目標達成のためには、あの部署に行ったほうがいい」というものが見えてくれば、キャリア選択制度で異動ができるようになっています。また、既存の部署への異動ではなく、「新規事業をやりたい」という人も多くいます。そういう人には「SWITCH(スイッチ)」という新規事業提案制度を使って事業プランを提案してもらいます。

鈴村
鈴村

なるほど。

羽田さん
羽田さん

当社の場合、人材マネジメントのコアに「内発的動機づけ」というものを置いています。自分の内側から出てくる「これがやりたい」「こうなりたい」という欲求のことですが、社員の内発的な欲求に会社側が挑戦機会を提供し、力を発揮してもらおうということが基本にあります。まずは社員の意志を把握した上で、彼らの欲求に対して機会を提供していくこと。その具体例が、キャリアデザインシートの記入から始まる一連のフローだと言えますね。

関連記事:【解説】タレントマネジメントの意味と必要性とは?実践のための方法を解説
鈴村
鈴村

「内発的動機づけ」をうまく導いて、社員のキャリアアップ支援や最適配置を実現しているということですね。

羽田さん
羽田さん

その通りです。社員の意思に反した配置はできるだけしないようにしています。「この部署で働きたい」「この職種で働きたい」いう社員の意思を組み合わせて、組織を組み上げていくことは、経営陣としての責任でもあると思います。

鈴村
鈴村

人事業務を属人的に行っている企業もまだまだ多いと思います。LIFULLさんの従業員は約1,000名です。その規模になると、さすがに属人的な業務遂行は難しくなるものでしょうか。

鈴村 賢治(すずむら・けんじ)。中央大学を卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。
テキストマイニング・データマイニングを専門とし、CRMシステムなどの開発やマーケティングデータ分析のコンサルティングを多数経験。2007年、株式会社プラスアルファ・コンサルティングに入社 取締役副社長に就任。
得意のデータ分析のアプローチから、人事戦略にもマーケティング視点を取り込み、科学的な人材活用の実践を推進する手法=「タレントマネジメント」の啓もう、普及活動のため、日々全国を駆けめぐっている。

羽田さん
羽田さん

はい。そもそも「データを定期的に更新し続ける」ということ自体、非常に困難だと思っています。最初は良いのですが、どこかで更新が途絶えてしまうことが多い。ですから、これまではマネジャー陣の頭の中に記憶してもらうようにしていました。彼らが50人の社員を担当しているとしたら、その50人分の記憶を常に更新しておいてもらって、必要に応じてマネジャーにヒアリングすることで情報を集めるというやり方ですね。しかし社員数が増えるとさすがに限界が見えてきました。

データを集めて分析する重要性

鈴村
鈴村

そうした属人的な管理に限界を感じ、現在は当社のタレントマネジメントシステム『タレントパレット』を活用していただいているんですよね。羽田さんにとって、導入するシステムに必要なものは、どんなものだったんでしょう。

タレントパレット:社員の人事基本情報からモチベーションなどのエモーショナルデータまで広く集約・分析可能なタレントマネジメントシステム。採用・配置・育成・評価・活躍(抜擢)までワンプラットフォームで実現。

羽田さん
羽田さん

3つありました。

  1. 1つは社員情報を「見える化」できること。当社の場合、専用のシステムを使って管理している情報もあれば、エクセルを使って管理している情報も、担当者の頭の中で管理している情報もありました。そのため、「あの情報はどこにあったっけ?」となることも多かったんです。それらを一元管理する必要がありました。また、従来の方法では集められていなかった情報も多かったため、アンケート機能などで情報を集めることができることも重要でした。
  2. 2つ目は、そうして吸い上げた情報を、素人でも簡単に分析できる仕組み。
  3. 3つ目は、意思決定者に簡単にシンプルに情報を伝えることができる仕組み。

この3つを軸にタレントマネジメントシステムの導入を検討しました。

鈴村
鈴村

人事領域には管理しなければいけないものがたくさんあります。マーケティング部門が顧客理解のために細かくデータを分析するのと同じで、社員理解を深めるためにデータ分析をするのは、人事として必要なことだと言えるでしょう。羽田さんもその考えに共感いただけたということですね。

新たなシステムを一緒につくり上げる

鈴村
鈴村

HR分野には、ほかにも似たサービスがあると思います。その中で『タレントパレット』に決めた理由はなんでしょう。

羽田さん
羽田さん

いろいろ試した中で、「見える化」ができるものは多いのですが、情報の吸い上げや分析までできるものはそこまで多くはなかったんです。それがまず前提にあります。
そうした中で、最終的に『タレントパレット』に決めたのは、鈴村さんをはじめとして、プラスアルファ・コンサルティングのメンバーの方が非常にビジョナリーで、「こういうシステムをつくっていきたい」ということが明確だったからですね。「社員を管理できます」ではなくて「将来こうしていきたい」というビジョンが非常に明確でした。
こうした仕組みというのは、ベンダーから一方的に与えられるものではなく、ベンダーとユーザーがパートナーとして一緒につくり上げていくものだと考えています。そういう私の考え方にも共感していただけましたし、今後目指していきたい方向性も合致したからこそ、導入を決定しました。

鈴村
鈴村

ありがとうございます。確かに羽田さんがおっしゃるように、データの「見える化」やモチベーションにかかわる情報の吸い上げなど、単一の目的を達成するためのツールは数多く出ています。しかしHRの領域はそんなに単純なものではありません。数年後には、複数のツールを用いないと1つの目的が達成できない時代が来るはずです。だからこそ、それらの作業をワンプラットフォームでできる『タレントパレット』の重要性が高まると思うんです。

経営判断にも活用できる人材情報

鈴村
鈴村

具体的にはどのように『タレントパレット』を活用しているのですか。

羽田さん
羽田さん

こちらも3つあります。

  1. まずは経営判断。当社は意組織変更を頻繁に行う会社です。その際の人材発掘に活用しています。新規プロジェクトを立ち上げるとき、「こういうキャリアプランをもっている人」「こういう経験がある人」という条件で該当する社員を探すのに便利です。
  2. 次に、次世代経営人材の育成です。当社では年数回、次世代経営人材の育成方針を決定する「未来人材会議」という会議を開催しています。その会議で議題にあがった社員のデータをプールして、さまざまな情報を記録するようにしています。将来の経営人材を継続的にモニタリングできるようにしているんです。
  3. 最後は、データをかけ合わせた分析。これはまだやり始めたばかりです。たとえば、残業時間と成果のデータを組み合わせてみて、「ちゃんと成果を上げているのはどんな人か、長時間労働は成果とリンクするのか」などといったさまざまなテーマで分析しています。

逆に鈴村さんにお聞きしたいです。「こういう使い方もある」みたいなアイデアはありますか。

鈴村
鈴村

そうですね、テキストマイニングも活用できるのではないでしょうか。エントリーシートや志望動機、各人に対する上長の詳細な評価コメントなど、人事領域にはテキストベースの情報が数多くあります。『タレントパレット』ではそれらを分析できるようになっていて、「どんなキーワードが多く出ているか」などが一目瞭然になります。そうした部分は、経営の意思決定の中でも使ってもらいやすい要素のひとつだと思いますね。

動的データを集めて活用の幅を拡大

鈴村
鈴村

今後、タレントマネジメントでやっていきたいことはありますか。

羽田さん
羽田さん

いくつかあります。たとえば動的データの収集ですね。社員番号や年齢みたいなものは変化をしない静的データで、モチベーションや体調など、日によって大きく変動するものが動的データです。この動的データを集めて、モチベーションが下がっている社員がいたら即座に対策を取れるようになるといいですね。
今後、社員の「幸福度(ウェルビーイング)」を計測していきたいと思っています。仕事以外の部分も含め、人生全体の幸福度をデータ化していきたいんですよ。
7月から、そのための新しいアンケートをとる予定で、その入力・分析も開始していく予定です。最終的にはカメラやマイクを利用して、表情や声の分析、感情や性格の分析までできるようになれば理想的ですね。

羽田さん
羽田さん

あとは離職予兆分析。勤怠のデータと動的なデータを組み合わせることで、1年以内の退職可能性みたいなものを出したい。ネガティブな理由での退職を防げるようになるかもしれません。
分析でいえば採用選考時の評価や適性検査と、入社後の活躍度相関関係などの分析も始める予定です。まずはいろいろ試してみて、当社ならではの傾向が見えてくるといいなと考えています。
長期的には、システムが人材の推薦をしてくれたり、組織デザインの際のスパンオブコントロールなどのアドバイスをくれたりなど、意思決定の支援ができるようになるのをめざしています。

鈴村
鈴村

HR領域には、人事情報と人材情報の2つがあると思います。人事情報とは「社員情報」「経歴」「評価」といった、ふだん人事の方があつかっている情報ですね。これをデータベース化しても、単なる人事システムになるだけです。羽田さんの幸福度の話にもあったように、社員というのは人間であり、感情があります。そこで適性検査の結果や、特技、スキルや能力、さらには満足度のようなエモーショナルな部分のデータを組み合わせることで、人事情報がはじめて人材情報に発展する。離職予兆などを調べるには、動的なデータを取ることが必須でしょうね。

データを蓄積し人事が情報武装する

鈴村
鈴村

今後、タレントマネジメントはさらに高度化していくものだと思います。人事がそれに対応していくために、意識をしたほうがいいことや、気をつけたほうがいいことはありますか。

羽田さん
羽田さん

ひとつは、「なんらかのフレームワークを使ってデータを管理してみること」ではないでしょうか。私は未経験で人事の仕事をはじめました。ですので、すべて手探りで、手あたり次第さまざまなデータを集めてきました。
こういった方法でデータを蓄積していくと、「実は蓄積すべきだった採用選考時のデータを集めていなかった」など、抜けもれが発生する可能性があります。どういったデータを集めるべきかを一つ一つ考えたり調べたりするのは非常に手間がかかりますよね。そこで、ある程度、人事が管理すべきデータを網羅的に押さえているシステムを使ってデータを蓄積していくのは、非常に手っ取り早くていいと思います。本来時間を割くべきデータの活用に情熱を注げるようになると思います。
もうひとつは、ファクトベースの意思決定に活用していくことでしょうか。人事関連の情報は、定性的な内容から噂話のような内容など、そもそも情報が不足しファクトが見当たらないことも多く、説得力に欠けてしまうことがあります。だからこそ、データを活用したファクトベースでの意思決定をしていくことができれば、会社を前進させるための力強い提言ができるようになると思います。

鈴村
鈴村

人事や経営部門がもっている情報と、事業部門のマネジャーがもっている情報とでは絶対的な量が全然違いますからね。結果として対等な議論ができないこともあるはずです。だから、人事が情報武装できる価値というのは高いと思います。
それから、人事のデータの中では「採用から活躍まで」のデータが貯まっていないように感じます。採用は採用担当がいて、採用した段階でデータが切れてしまう。育成は育成担当がいて、そこもデータが孤立している。そういう分断されたデータを時系列で蓄積していくメリットは大きいと思いますね。たとえば入社して3年後に活躍している社員は、「採用時、志望動機になんて書いてあったか」というデータが地味に活きてくる可能性もあります。
羽田さん、本日はありがとうございました。